親の認知症からの資産凍結を防ぐために利用できる制度に成人後見制度があります。成人後見制度は2つあり、一つは任意後見制度、もう一つが法定後見制度です。
この記事では
- 任意後見とはどんな制度か
- 任意後見制度で出来ること
- 任意後見制度で出来ないこと
- 家族信託との違い
について解説していきます。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、親本人がまだ判断能力があるうちに、将来の認知症や障害に備えて、親本人が選んだ任意後見人に代わりにしてもらいたい事を「任意後見契約」で決めておく制度をいいます。「任意後見人」には、判断力のある成人であれば誰でもなれます。
任意後見の効力を発揮させるためには、親本人の判断能力が低下してきた際に、管轄の家庭裁判所に申し立て「任意後見監督人」が選任された時から始まります。この手続を申立てることができるのは、本人やその配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。
なお、本人が死亡するとその効力を失います。
任意後見と法定後見の違い
成年後見制度には2種類あり、
- 本人の判断能力がある ⇒ 任意後見制度
- 本人の判断能力が低下している ⇒ 法定後見制度のみ可
があります。
任意後見 | 法定後見 | |
本人の状態 | 判断能力がある | 判断能力が低下 |
後見の開始時期 | 後見監督人を付けた時 | 判断能力が低下した時 |
後見の始め方 | 家庭裁判所に申し立てる | 家庭裁判所に申し立てる |
本人の意志の反映 | 反映される | 反映されない |
後見人の権限 | 契約内容に基づく | 広範囲 |
後見人の取消権 | なし | あり |
後見監督人 | 必要 | 家裁が必要と認めた時 |
任意後見制度で出来ること
上表を参考にしてもらえば分かりやすいと思いますが、任意後見制度は「契約時に親本人の判断能力がある事」が条件です。(判断能力に問題がでてしまったら、任意後見制度は使えません)
本人の判断能力があるので・・・
- 本人が任意後見人を選任する
- 契約内容に本人の「意思」を盛り込める
- 財産管理ができる
- 身上監護ができる
簡単にまとめると、任意後見は本人がまだ判断能力があるうちに契約をするので、契約内容に本人の意思を入れられるところが大きなメリットです。
身上監護(しんじょうかんご)とは聞き慣れない言葉ですが、親の暮らしの維持を目的としたもので、生活・医療・介護などの「契約手続き」を進める法律行為を言います。身上監護の目的はあくまで親の生活の支援を目的とするものであって、後見人が管理をするものではありません。任意後見制度を組成する時に、親の意志をしっかりと確認することが重要です。
なお、身上監護(身上保護とも言う)は、実際の暮らしを支援するような行為(実際の介護業務、食事の世話など)は含まれません。あくまでも、契約などの法律行為のみを指します。
任意後見制度で出来ないこと
逆に、任意後見で出来ないことは・・・
- 家庭裁判所が専任する任意後見監督人が付かないと始まらない
- 親本人が取り交した契約の取消権はない
- 本人が死亡した時点で人後見契約は終了する
という点があります。
任意後見制度は使えないということを
覚えておきましょう
任意後見の始め方
この記事では、おおまかな任意後見制度の手続きの流れを説明します。
任意後見は「本人に判断能力がある」状態であることが条件ですから、上図の➀~➃は親本人が健全な内に手続きを、法務局へ提出します。
その後、親本人の判断能力が低下したと判断されたら、管轄の家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申立ます。家裁より監督人が選任された時点で、任意後見が始まります。
この任意後見の終了期間は、本人が死亡したときとなります。
家族信託との違い
親本人の判断能力がまだ十分にある場合に契約をできるのが任意後見制度ですが、同様に家族信託という制度もあります。
家族信託が出来ることは「財産管理」のみとなりますが、親本人(契約の委託者)の意思の反映範囲はとても広く、預貯金、不動産管理のみではなく、事業の継承権や相続にまで及びます。
そのため、最近では家族信託を依頼する人が増加傾向にあります。ただし、任意後見ができる「身上監護」は、家族信託ではできません。
任意後見 | 家族信託 | |
本人の状態 | 判断能力があるうち | 判断能力があるうち |
契約開始時期 | 親の判断能力が無くなり家裁に申立した時点 | いつでも開始できる |
財産管理 | 出来るが限定的 | 自由度が高い |
身上監護 | 出来る | 出来ない |
ここでは簡略的な比較しか行いませんが、本人の意志がより反映される「家族信託」の詳細は、別の記事に記載していますので、そちらもお読みください。
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まとめ
親の認知症などによる判断能力の低下が原因の「資産凍結」に対抗する策として、任意後見制度を説明してきました。
成年後見制度には2種類あり、任意後見制度と法定後見制度があります。どちらが使い勝手が良いかと言うと、間違いなく任意後見制度となります。
法定後見は親が既に判断能力を失った際に、資産凍結を解ける唯一の方法ですが、法定後見人には見ず知らずの第三者が任命されることが約9割です。親の財産でありながら、家族の意向はなかなか反映されない制度で、「法定後見制度を使って後悔した」という感想が後をたちません。
ただ任意後見制度を利用するには、親がまだ健在で判断能力があるうちに、任意後見契約を結ぶ必要があるので、今のうちから親を含めた家族でよく検討されることをおすすめします。
また、親がまだ健在な時に利用できる制度に「家族信託」もあります。自由度・使い勝手な点からみれば、任意後見制度よりも優れていると言えますので、家族信託も検討してみることをおすすめします。